読書感想文 白痴

I'm a hakuchi

雑記1 日本経済新聞社 『株価の見方』を読んで

 

株価の見方 (日経文庫)

日経文庫シリーズはいくつか読んでみたけど、三つくらいのタイプに分けられると思うので、まとめてみた。
 
 
1.うまいことコンパクトにまとめられてる系
新書の存在意義といっても過言ではない「誰にでも、わかりやすく、エッセンスを」まとめている。大系的に学ぶ時間がない初学者でもサッと全体を俯瞰できる。例えば桜井久勝の『会計学入門』とかがオススメ。

会計学入門 (日経文庫)

 
2.アッサリし過ぎて逆に訳がわからない系
紙面の都合か、あくまで初学者向けにしたいがためか、込み入った議論を避けたせいで背景知識の無い読者にはちんぷんかんぷんな内容になっちゃったタイプ。今回の『株価の見方』はちょっとこれに近い。
 
 
 
3.入門書と見せかけて持論バリバリ系
タイトルの「~入門」とは名ばかりで、著者独自で(たいがいは)大胆な持論をぶち上げるので注意しないといけない。川勝平太の『経済史入門』なんかまさにコレ。
 

経済史入門―経済学入門シリーズ (日経文庫)

 
貶しているように紹介したけど、この経済史入門はなかなかの名著だと思う。海洋国家と銀の産出国の強みを活かした日本経済の歴史的なダイナミズムにワクワクする。
 
あとは「毒にも薬にもならんタイプ」も考えたけど、タイプ2とほとんど被ってるかなと思いやめた。新書は当たり外れが大きいんだけど、片手間に読めるんで月二冊は読めたらいいな。
 
以上

読書感想文1 角井亮一 『物流がわかる』

 

物流がわかる (日経文庫)

日本経済新聞社 日経文庫166
2012年9月14日 初版第三刷

 

概要

物流の基本的な役割と概念を説明し、具体的な企業名を挙げて事例も紹介する。全Ⅵ章あるうちのⅡ章の2節・3節、Ⅲ章とⅣ章の全体と本書の三分の一を物流戦略の実例が占めている。いまや世界のハブ空港となった仁川空港、すでに生活に浸透してきたネットスーパー、おなじみのアマゾンやアスクル等の事例が勉強になる。

 

本書では「物流は企業戦略である」ということが一貫して言われている。いわく、

  • 物流は企業のやりたいことを実現するためには欠かせないもの
  • 物流によって企業力と商品力を高めることができる

この認識はもはや常識だ。アマゾンが注文当日に商品を配達しますと言い出し、いかに速く(早くではない!)必要なときにモノを運べるかがネット通販会社にとっての重要戦略となった。

 

かつて物流業務に従事していた身としては、なつかしく思いながらも(といっても数ヶ月しか経っていないが)物流について色々と考えてしまった。

 

物流は経済のボトルネック

過去に製造業相手に物流の提案を行ったことがあるが、とくにモノを造る人たちは物流のことを軽視する傾向が強かった。モノを削ったり切ったりするのにお金がかかるのはわかるが、モノを右から左に動かすだけのことにどうしてお金を使わないといけないのか、と。そうは言うがどんなことにも物流が絡んでくる。つまり企業がどのような方策を立てても、それを実現するにはたいがいの場合は物流のことを考えないといけない。(業種によるところもあるが。)

 

 

例えば、新しい地域に出店する場合、店舗への配送のためにトラックを増やしたり新しい物流拠点をつくる必要がでてくる。また、商品ラインナップを充実させたければ、欠品を防ぐために製造と物流の連携を強化したり、納品の回数を増やす等の工夫が必要だ。顧客と納期を話し合う際には物流を必ず考慮しなければいけない。企業活動の規模は物流のそれに大きく制約される。だから物流を専業とする会社が存在し、物流のほとんどがアウトソージングされている。確かに物流は、経済において重要な役割を演じている。

 

 

物流をサービスの中心にすえることについて

すでに散々言われていると思うが、物流をサービスの基幹として打ち出すことについては色々と無理が生じている。著者のいうとおり、物流を用いて企業の力や商品力を高めることは可能だ。本書で紹介されているアサヒビールの「鮮度実感パック」のように、工場から小売店までの納期を製造3日以内に縮めることで品質の高い商品を提供することができる。他にもセブンイレブンマクドナルドの例が紹介されているが、これも興味深い。配送の回数を増やすことでバックヤードの面積を節約し、コストの低減と売り上げ機会(売場面積)の増加を図るという。物流に力をいれることでリードタイムを短縮したり、時間指定等のサービスで利便性を高める等が典型的な手法だろう。物流をマーケティングの一手段と捉えることが本書の基本的な姿勢だ。

 

 

とはいっても物流の人的・物理的資源は逼迫する一方だ。確かに物流を利用して企業価値を高めるという著者の理念は現実のものとなってきたが、物流サービスを供給する側が技術の進歩・アイディア・需要に追いついてないのが現状だ。実際に働いてみて思ったが、物流はハードに頼る面が多いので景気の変動に対してはかなりリスキーな仕事だ。おまけに数をこなすので働いている人間への負担も大きい。資本集約型と労働集約型、両方のデメリットを被っている。

 

 

さらに物流サービスに関わる人たちに十分な対価が支払われていないという問題もある。早く商品を届けてほしければそれなりに高い運送料を払わなければならない。消費者はそんな簡単なトレードオフも理解できなくなってしまった。消費者と労働者はイコールなのだから、結局自分の首をしめることになる。例えばエクスプレスサービスに二倍の料金がかかるなら、本当にそのサービスは必要かとふと立ち止まり、判断次第ではそんなサービスはいらないとも言えるはずだ。こういった消費者としての自覚については下記のブログがクリティカルに指摘している。

 

www.wagahaji.com

 

 

かつて物流に関わっていた身としては、本書の理想としている、「企業戦略としての物流」が健全な形で発展していくことを願う。


以上